起業とは、一つのビジネスモデルを継続的に発展させるため、投資と事業とを一人の人間が同時にスタートさせることによって成立している。そこが、サラリーマン経営者や投資家と大きく違っているところ。
4月17日、民事再生法の適用断念を表明して、倒産が避けられなくなった割安固定電話サービスの平成電電からの連想で、今注目を集めているIP通信のベンチャー企業近未来通信は、中継局オーナーを募集するにあたって、この独立・起業・新規事業の通信ビジネスを謳い文句にしている。果たして、近未来通信のビジネスモデルが起業にあたるのかどうか、最近アクセスが急増している当サイトのページ「近未来通信に未来はあるか」の続編として、検証してみることにした。
まず、近未来通信の典型的なビジネスモデルは、IP 通信の中継局の設備費を起業する側のオーナーに資金提供してもらい、中継局からの利益を継続的に還元するシステム。加盟料、サーバー設備資金等を合わせて国内通信の標準的な8回線で1,137万円。このほか加盟当初には、システムメンテナンス料として、月約30万円を4、5ヶ月程度負担させられる。その上で、中継局の通信使用料として、月々に数十万円が還元金としてオーナーに振り込まれる仕組みになっている。新聞や起業雑誌で見かける「営業不要でカンタン開業」の謳い文句はここにあるらしい。このビジネスは、1998年にスタートしており、現在の近未来通信が公表している年間売上高は181億円(05年7月期)。
この近未来通信が、長いこと掲載していた起業情報誌リクルート「アントレ」での広告が5月号で消えてしまった。ゴーグルでは、「起業」をキーワードに検索すると、トップページのスポンサーサイトに載せていた広告も止めてしまった。また3月に女子プロゴルフの「近未来通信クイーンズオープン」を主催して以降は、女優・大地真央が受話器を片手にもってポーズを決める新聞広告もまったく見ることがなくなった。
中高年世代の中には、老後資金のための投資先として考えたり、既に起業をしている人が第二起業として考えることも多いようだが、起業の視点で見た限り近未来通信の「中継局オーナーシステム」は、多くの問題が噴出する一歩手前の段階にきているようだ。
起業の視点で考えると、98年にスタートさせたビジネスモデルが、06年においてもそのまま使っているとはありえない話だ。それも、技術革新が最も進んでいる通信システムの分野においては、「中継局」や「8回線」、「1,000万円もするサーバー」など言葉自体が陳腐化してしまっている。特にIP電話の分野は、固定電話の6分の1にまで普及が進み、NTTをはじめとして大手通信各社が参入している現状では、とっくの昔にベンチャービジネスとは云えなくなくなっている。しかも現在は、後方からパソコンを使って電話代完全無料の「スカイプ」が迫っていて、IP電話自体が通信市場に登場した時のように儲かるビジネスではないのだ。
また、近未来通信の資本金6000万円で、売上高181億円という数字が不自然だ。その数字を財務諸表にはめ込むと、大変な額の負債がまかなっており、そこの部分を起業家の資金が支えていることになる。ただ、こんな過少資本では、小さな資金トラブルでも簡単に倒産する危険がつきまとうし、M&Aの格好の標的にされてしまう。近未来通信の経営者としては、90年代後半の銀行による貸し渋りの時代のビジネスモデルとして、「中継局オーナーシステム」を考えた思われるが、既に時代はデフレが終わって、インフレ対策を考えなければならない時代に入っている。起業をする人間の視点から見ると、この時代遅れの経営システムが現在も事業を継続していられる要因を知りたいものだ。
技術的視点から見ても、中継局に設置されているとするサーバーの所有権の問題が残る。近未来通信側は、「(サーバーを)オーナーに買ってもらう」と云っており、早期に一度買うことによってサーバーが壊れない限り、生み出す利益はオーナーが受け取ることが出来ることになる。すると、現在説明会で加盟を勧められて新たにオーナーになる人への利益配分は、既存のオーナーとの配分が終わった残りを配分してもらうのか、それとも世界に新たな中継局を作り続けるのか・・・。
近未来通信の最大の問題は、これらの仕組みがほとんどブラックボックスになっていて、個人が巨額の資金を投資するビジネスとして、IP電話の利用料なり、他社に転売することの出来る通信施設なりが、しっかり担保されているのかどうかさえ確認できない点にある。そのような場合、起業という言葉に踊らされて近づくと痛い目に遭いそうなビジネスには、近づかないことが起業の鉄則だ。既に経済環境は大きく変貌していて、株式投資でも不動産投資でも、投資信託への投資でも、それなりの利益を上げられる環境になっている。起業にあたっては、投資金額の3〜5%前後をマーケティングや事前・予備調査に割り振るのは、リスク管理からも常識化されている。一度、起業相談をしてみるもの大切なことだ。
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