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『 進入禁止、安易な独立開業への道 』
最近、起業相談に寄せられる質問のなかに、「行きがかり上、起業することに
なって・・・」といった形で、本人も乗り気ではないのに仕方なく起業する人が目
に付く。
首都圏で広告代理店から独立するデザイナー氏は、社内には営業職だけに
なって、デザイン関連の仕事はすべて外部委託に切り替えられるのに伴って、
社長から説得されて独立開業の道を選んだ。ただ、会社を辞めたとはいえ仕事
の内容はこれまで通り、会社が制作する広告原稿を従来の外部委託先と振り
分けて請け負うことになると云う。
大手家電メーカーの系列販売会社でサービスセンターに勤務して、製品の修
理を担当していたスタッフ氏も、今回会社側との話合いで外注先のサービス会
社から仕事をもらう修理メンテナンス代行業者として、独立開業の道を選んだ。
近畿地方の大手住宅メーカーの設計士は、会社組織の大掛かりな再編に伴
う異動でリフォーム会社に転籍になったうえ、半年もしないで住宅リフォームの
設計士として独立開業の道に追い込まれたという。
彼らに共通するのは、会社を辞めて起業しながら、新たにする仕事は従来と
同じことをしている点。また、起業にあたって新しい顧客開発とか事業領域の
拡大などはまるで考えていなくて、自分自身が企業を経営をしなければならな
い認識さえ希薄である。
他方、仕事が請負制に変わったために目先の収入は少し増えるが、健康保
険や国民年金など社会保障関連の費用は、全額自前で負担しなければなら
ず、差し引きの収支は決してプラスにならないことも多い。
「独立開業」や「プロワーカー」という言葉だけが一人歩きして傍からは心地
よく聞こえるが、冷静に考えてみると上記の例などは体のよい首切りとしか思
えない。
目先に仕事があるから問題の本質が先送りされているが、ビジネスのように
環境の変化が激しい世界では、すぐに問題は露呈する。
それは、これまで仕事を供給してくれていた会社の仕事がいつまで続くか、そ
の保障はどこにもない点である。もし何かしらの理由で仕事がストップしたら、
事業は一瞬にして行き詰ってしまう。
また、会社にいたころは当然のように入っていた業務にかかわる情報も、独
立開業することによって従来のようには手に入れることができなくなる。特に、
I T (情報技術)に関する情報はどんどん進化している世界なので、真剣に情
報収集法を考えなくては、独立後の明日はなくなる。
今の仕事をそのまま続けての独立開業は一見とても楽に思えるが、その内
実には落とし穴も多い。
会社からの誘いに乗っての安易な独立開業には背を向け、自分の中での起
業の枠組みが出来上がるまでは、じっと我慢をするしかない。少なくとも、独立
開業するための事業計画や資金計画、市場調査などを済ませ、気分的にも自
分が中心で起業をする気持ちになってから、会社を辞めても遅くはない。
そのためには、自分であれこれ考えるだけでなく、一度起業経験者に相談す
ることも大切である。
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