第二次世界大戦が終わって60余年、わが国の雇用は終戦直後に戻ったように悪化しています。
今振り返りますと、戦後の日本が政治も経済も安定した状態を続けてきたのは、一にも二にも雇用の安定があったからです。贅沢を言わなければ、人並みの生活をするための、仕事と収入はそんなに無理なく手に入れることができました。
1980年代には、米国から「ワーキング・プア」と云う言葉が伝えられました。就職して必死に働いているのに、人並みの生活ができない人たちの出現です。そのころ、わが国はバブルの絶頂期で、「ワーキング・プア」は違う世界の出来事のように感じたものです。
あれから20数年、今わが国は「ワーキング・プア」も、雇用不安も、大失業時代も全てが起こっています。終戦直後の状態に戻りつつあります。
そこで注目されているのが、人に「雇われない生き方」です。就職することばかりを考えても、現在の縮小を続ける経済では、企業が雇用できる余地は小さくなっています。
しかも、最近の就業環境では、人間を消耗品扱いですから、何か不満を言うと直ぐクビを言い渡されるのが当たり前になっています。今後、デフレ経済の下でますます不況になりますと、賃下げやサービス残業は当たり前の風潮になりそうです。
そんなことなら、人に雇われずに自分の力で独立を考える労働者が生まれてきます。協同労働は、そんな環境のなかに生まれた起業の一つの形態です。
協同労働で起業するために必要なのは、同じ志(こころざし)をもち、同じ仕事に従事する仲間です。この仲間は、全員対等な立場で組織を運営します。
次に、起業した組織を維持、運営するため共同で出資する資金です。それから、起業を継続するためのノウハウや知恵を持ち寄ります。これで、起業に必要な、モノ、カネ、ヒトが揃うことになります。
現在、協同労働で仕事している人は約10万人、売上げは約500億円と云われる市場です。
業種では、介護、福祉、公共施設の管理、高齢者向けサービスがほとんどです。ただ、わたしが協同労働の組織作りに関わった経験から云いますと、理容店や美容室、マッサージ、ハウスクリーニングなど、技術系のサービス業種には、参入する余地はとても大きいと思います。
協同労働による起業に向けて動き出すとき、最も高いハードルは協同の仕組みを自分たちで考えなければならないことです。
株式会社を設立する場合を考えますと、既に書式が決まっていて、そこに必要事項を記入した上で、公証役場や法務局に行くことで会社を作ることができます。
協同労働には法律がありませんから、このような手続きは不要です。その代わり、自分たちで自分たちのための規定を作らなければなりません。
わたしが協同労働の設立に関わったのも、この規定作りをさせてもらったからです。そんなに難しいことではありませんが、やはり利害関係が絡みますから、参加者の意思統一に時間がかかります。
単に、いつも酒を飲む仲間という付き合いだけでは、協同労働を一緒にするのは難しいと思います。
日ごろ、会社の不平不満を言い合う仲間より、仕事の方法によっては多くの人の力になれるとか、もっとよいモノを提供できると云った、建設的な意見を交わせる仲間なら、志の高い協同労働で仕事をすることが可能です。
もう一つの高いハードルは、事業を運営していく能力を磨くことです。ここは企業経営とまったく同じです。
生活環境の変化によって、お客さんニーズは絶えず変化しています。去年まではニーズの高かった広告宣伝が、今年に入ってすっかり人気がなくなるように、協同労働で行う仕事にも盛衰はついて廻ります。
会社勤めの時には、経営者が必死になって市場ニーズを探していました。協同労働になると、自分たちで市場ニーズを探さなければなりません。当然、リスクを取ることもあります。
協同労働をはじめるにあたっては、この覚悟も考えることが必要です。「雇われない働き方」にも、それなりのリスクがあることは知っておいてください。
協同労働で起業を目指すなら
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