起業を辞書で引くと、「事業を始め、興すこと」と出ている。
わが国においては、起業という言葉が日常的に使われるようになって、まだ日が浅い。
産業界では70年代初め、米国から直輸入の和製英語ベンチャー・ビジネスが大変な話題になって、ハイテク技術を使った研究開発型企業が相次いで誕生したが、起業という言葉が日常的に使われるようになったのはそのずっと後、バブル経済が崩壊して長期の不況が続いた90年代も半ばのことである。それまでは、「商売を始める」とか「会社を興す」が一般的で、起業という言葉は存在してたが、今ほど日常的には使われなかった。
バブル崩壊後、経済の縮小が続くなかで、政府は経済の活性化と雇用の拡大のためには、小規模事業の数多い誕生が欠かせないとして、政策的に起業の拡大が試みられた。
しかしわが国に限らず、人が多く集まる場所には自然発生的に商業や製造業が起こるもの。都市化が進んだ江戸時代以降は、徒弟制度のもと「のれん分け」のカタチで起業は日常的に行われた。また、地縁や血縁などあらゆる伝手を頼って商いを始める人も多く誕生していた。
明治時代の商業学校では、正規の実地研修の中に、街中で商品を売り歩く行商が取り入れられていた。
政府が旗を振るまでもなく、起業は日常的に行われるものである。
組織化された会社や役所などで働くサラリーマンが急速に増えたのは昭和30年代から現在までの一時期のことで、歴史的に見ると人間の歴史は長いこと起業の歴史であった。
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