「ニッポン 上げろ!!」を合言葉に、土台の陥没から建物を守っているのが、のMさん(47)だ。
戸建住宅では、築年数が経つにしたがって窓の閉まりが悪くなったり、壁に亀裂が入ることがあるが、その原因の一つとして土台の陥没が考えられる。
また、ビルや工場などでも、床面が微妙に歪んで水平でなくなるケースもよくある。
これら地震や周辺の基礎工事、車の振動などが原因で起こる地盤の陥没は、軟弱地盤に建物を建てるとよく見られる現象だ。
普段は、「建てつけが悪くなった」で済まされている現象も、一旦大規模地震が発生すると、建物倒壊の最大の原因になる。
ただ、この陥没を直すとなると、最悪の場合、建物を解体して地面にコンクリートを流し込み、水平を確認してから再度建て直すという大変な労力を必要としている。
Mさんの会社では、特殊樹脂の硬質発砲ウレタン樹脂を陥没した部分に注入する工法によって、短時間に安全に建物内部もそのままの状態で、陥没部分を元に戻すことができる。
云わばこのウレタン樹脂は、魔法の樹脂とも云えるわけだが、このウレタン樹脂開発へのかかわりが、Mさんにとっては起業のきっかけとなった。
父親が転勤族だったために、Mさんの少年時代は引越しに明け暮れる生活だったが、新しい住まいで自分の部屋作りに関心をもつようになり、机や本棚のレイアウト作りがやがて建設設計へと向かった。
アメリカの大学院で建築を学び、就職はオーストラリアの建築設計事務所。そこで10年近く勤めたあと、1998年にオーストラリアで商業施設の設計・施行の一貫請負会社を起業する。
そして2000年には、シドニーで特殊樹脂を使ったコンクリート床スラブ沈下修正工法と出会い、技術を習得した。
この工法は70年代にフィンランドで開発された工法で、技術特許を保有しているEUの会社は、日本への進出を考えていた。
そこでMさんは日本に戻り、特許保有会社の日本法人代表として会社を立ち上げる。
所が、施工機械を運ぶには20dトレーラーを必要とし、使用するウレタン樹脂
にはフロンが使われるなど、日本の環境事情をまったく無視した作業法にMさんはEU本社と衝突。
あっけなく日本法人の代表を辞めることになった。
その後は、新たな事業を立ち上げるため充電する時期に充てていた。ただ、地震が多発するわが国で、社会貢献度の高いコンクリート床スラブ沈下修正工法が、このまま日本から無くなることは社会的にも大きなな損失と考え、03年6月にまったく新たな会社を興すことにした。
まずMさんが手掛けたのは、建材メーカーと共同で硬質発砲ウレタン樹脂の開発。当然、ノンフロンタイプのうえ、発砲圧力が調節できるタイプだ。
次いで、道路事情に合わせた施工機械の開発を進め、20d車を3d車にすべて搭載できるまでに小型化した。
現在2台の3d車が、全国を回って陥没の修正に当たっているが、年内には後2台が完成して参入する予定だ。
Mさんの会社の技術は、新潟県中越地震や福岡県西方沖地震などで傾いた建物の修理で威力を発揮して、全国の建設関係者に知られるきっかけになった。
また、共同開発したウレタン樹脂は、その品質レベルの高さから新たな建設工法を生み出す可能性も高い。
Mさんのように外国から技術を導入して、それを日本向けに作り替えて普及させる手法は、明治の昔からわが国でよく使われる手法。
最近は、IT技術の分野でよく見られるが、サービス分野や製造、販売分野などには、まだまだ導入されていない画期的な技術は多い。
それだけ、起業の機会も多いことになる。あくまでも、法的に問題にならない方法による導入が前提だが、視野を海外に広げることも、起業には大切なことがMさんの経験からも判る。
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