今、最も注目を集める起業家のひとり Fさん(31)には、現在起業で大成功している起業家の枠がほとんどあてはまらない。
高学歴者がほとんどで、米国のMBA卒業者さえ多い最近の起業家の中にあって、Fさんは高校を卒業してから建設作業員、訪問販売などさまざまな雑多な職業を経験している点。
起業にとっては、ITをいかに活用するかが最大の課題になっている現在において、Fさんの起業にはすっぽりと最新IT化が抜け落ちている点。
そして何より、普通の起業家なら一業種での成功にアップアップしている時代に、業種の枠を取っ払って、立て続けに多角化に成功している点だ。
Fさんは、起業する前の色んな職業を経験していた時期に、とび職でコンサート会場のステージの足場を組む仕事をした。ここで、2日ほどの短期間に数百人の人間が、照明、音響などから、椅子並べに至るまで一斉に働く光景を目の当たりにして、自分が探していた仕事はイベント業界と決めた。
そこでFさんは、24歳の時に大阪のイベント会社に入社する。この会社では、後のビジネスの原型となる、イベント運営と販売促進、人材派遣を学ぶ。また、数千人の参加者が、心の開放を求めて全身でリズムに合わせるジャマイカ生まれのレゲミュージックと本気で向かい合ったのもこの時期である。
27歳で初めて個人事業として起業をスタートさせたが、それは大阪・岸和田の駅前商店街に出店した若者向けのストリート系のアパレル店だった。
彼は駅前商店街を、新旧世代が融合するショッピングセンターと考え、街の賑わいをいかに取り戻すかを考えた。しかも大阪府には、商店街への出店に対して助成金制度もあって十分に魅力的だった。
ここで、衣類の販売を手がけながら、同時にイベントの発信を始めている。商店街の活性化に向けたレゲエのミュージックのイベントである。
現在は、この商店街で若者向けに加えて子ども向けのアパレル店、帽子店の3店を営業している。
一方、起業した翌年には個人事業を株式会社へと組織の改編を行い、人材アウトソーシング事業を大阪市内に場所を移して乗りだす。ここでは、起業を始めるにあたって当初考えていた、イベントの運営・撤去、場内誘導などに人材を派遣するほか、小売店の店頭での販売促進、倉庫や製造拠点での軽作業など、新聞折込広告を利用する方法で広げていった。現在は、大阪、東京、名古屋の各地で労働者派遣事業を展開している。
イベントの関連では、05年の愛知万博で愛知県館のパビリオンの運営を担当。このほか、大阪女子マラソンの会場設営やモーターショー、各種展示会など年間で230件ものイベントに係わっている。最近の目標は、イベントの企画・制作から、興行、運営、メディアまで、トータルに係わるエンターテインメント創造企業へと階段を高めている。
また、高校生のころから好きだったレゲエミュージックへの関心も一段と高まり、今年1月にはわが国初のレゲエ専門のポータルサイトを立ち上げ、年内には音源不足を補うためにレゲエのCDの発売も予定している。
Fさんの事業展開が広がるにしたがって売上げも拡大を続けており、04年度が5億円、05年度は15億円、06年度には40億円を見込んでおり、07年には株式の公開も視野に入れている。
この急拡大を支えているのは、Fさんが色んな職業の現場で仕事をしたことによって、現場ニーズや仕事の展開をよく知っていることにある。これは、マネジメント能力だけを武器に起業しようとする高学歴者には真似の出来ないことであり、最近の大手企業の社長に現場出身者を登用するケースが増えている事情と共通している。
反面、短期間に急拡大を続けると間違いなく反動も現れる。また、社員数約40人、平均年齢27歳は、若手の少数精鋭というと聞こえがいいが、バランスの悪い年齢構成は難局に対しての抵抗力が弱いうえ、社員の少なさは会社に対する忠誠心の量的な欠如を表している。
これら、これから降りかかる問題にFさんがどう乗り越えるのか、興味深い起
業家の出現である。
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