若くして起業を目指す人にとって、唯一の武器は若いから失敗をしてもやり直しが利くということ。
同時に、本人の心がけ次第では、学校やセミナーでは絶対学ぶことのできない起業の実学を身につけ、スキルアップができる点にある。
Sさん(37)が最初に会社を立ち上げたのは24歳のとき。18歳で学校を終え、半導体洗浄装置の会社でセールスエンジニアとして働いているときに、漠然と企業経営に対する憧れを感じていた。
人よりバイタリティーが溢れ、他人とのコミュニケーションに長けていたSさんを起業に走らせたのは、仕事を通じて知り合った資産家のKさんの支援と助言があったからだ。Kさんは、資金面で全面的にバックアップしてくれたほか、事務所の開設や社員集めまで協力してくれ、半導体と精密機械の設計・開発会社を立ち上げた。
Sさんの頑張りとKさんの協力もあって、設立した会社は社員13人、年間売上げ1億5千万円まで成長した。
ところが、創業3年目に後ろ楯になってくれていた K さんの会社が倒産、その
あおりを受けてSさんの会社もあっけなく連鎖倒産してしまった。
Sさんは、手持ちの資金に不足分は借金までしてお金を作って社員の給料を払い終え、最後に残った個人負債は1500万円だった。
ここから長距離トラックの運転手とソフト開発の下請けをして、3年6カ月の間
睡眠時間2〜3時間と言う生活で借金を返済し続けた。
ちょうど二人目のお子さんが生まれる時期とも重なり、家族には借金の話をしないで頑張ったが、60`あった体重が49`まで痩せて、ついには体を壊してしまう。頭の中は、「もう一度成り上がってやる」という気持ちで一杯だった。
入院生活の間は両親からお金を借り、その後5度の転職も経験したが、個人の負債はなんとか完済した。
会社の倒産から4年後、31歳のSさんは再び会社を立ち上げた。
今度は自己資金の240万円に、2人の会社発起人に60万円を加えてもらい、
人材派遣と人材開発ビジネスを行なう資本金300万円の有限会社としてのスタート。
Sさんの転職経験を活かしての人材派遣と、同時に資金回収の早いビジネスに専念したい事情もあった。前の会社の経験で、売掛金が膨れ上がるビジネスには懲り懲りしていた。
新会社を立ち上げて6年、これまでSさんの会社は赤字になったことがない。
Sさんは最初の会社の倒産に懲りて経営にとても慎重だ。
企業経営には、何が起こるか分からないことを肝に銘じている。また、他の人材派遣会社との違いを、スキルと勤労意欲の高い技術者の育成に掲げ、意欲ある社員の独立開業に対して惜しみない支援を行なっている。
起業をする以上、全ての人が成功するはずもなく、失敗する人も当然出てくる。ただ、一度や二度失敗しても負債をしっかり返済したならば、再挑戦の不向きな国と言われるわが国においてもチャンスはある。
それができるのは、やはり体力と気力が充実した若いうちだけである。失敗の中で多くの教訓を学び、次に生かすことを考えることも重要だ。
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