今、製造業での起業が熱い。
数年前まで、工場の中国移転一色に染まっていたメーカーが、結局企業の中核となる技術を国内で磨きをかけ、それを応用した最先端製品の製造を進めるため、工場の国内回帰を本格化させていることが原因と思われる。
既に、一部地域では技術者の不足が深刻化していたり、部品製造の下請け企業が各地で減少していて、東北、北海道、九州、四国など、景気回復が遅れた地域への工場進出で、不足解消を図ろうとする大手メーカーも少なくない。
岩手県で技術開発型ベンチャー企業を営む Kさん(44)の会社も、このところ
研究開発の依頼の増加で慌しい毎日を過ごしている。
Kさんは東京の学校を卒業してから、郷里にある大手電子部品メーカーの地元工場にエンジニアとして長いこと勤めていた。
ところが、02年5月に工場閉鎖。Kさんには、他の工場への転勤も打診された
が、それまで温めていた研究開発技術の実現のために、同僚2人と一緒に岩手県に残る決意する。
退社後、国に申請していた超小型減速装置開発プロジェクトでの地域新生コンソーシアム研究開発事業補助金が認められて、一時は県の財団法人に席を置くが、03年5月に会社を設立して独立開業を果たす。
Kさんの会社が手がけるのは、超小型のプラスチック歯車。従来の金属製超小型歯車では、一つ一つに切削加工を施さなければならず、1個あたり数万円の価格になる。
Kさんの会社が開発した、歯形の長さ200マイクロ(百万分の一)bの世界最
小級のプラスチック製歯車を量産するならば、金属製の十分の一程度の価格で販売が可能になる。
このプラスチック歯車を情報機器やロボットに組み込むことによって、さらなる
小型化と低価格化が実現する。
携帯電話に接続するハンディープリンターでは、プラスチック歯車を利用して製
品化にも成功。04年には、画期的な製品開発として、マスコミにもしばしば取り上げられた。
これらは、岩手大工学部との共同研究から生まれたもので、大学発ベンチャーの成功例として取り上げられることも多い。
しかし、起業において順調に上手くいく話ばかりでないことは、起業家なら誰でも知っていること。
Kさんの会社においても、起業早々に大問題が起きていた。
技術開発型ベンチャーとして注目された Kさんの会社は、国の支援制度を活用することで、資金的には潤沢と思われていた。
ただ、これらは開発技術に対する支援であって、会社の設立などは、自分の資金で行なわなければならない。会社の設立とその後の運営で、当初の資金は直ぐに底をつきはじめた。
しかも、技術者だけの会社には、企業経営のノウハウがまるでない。苦し紛れに提携を考えた企業も、技術の横取りしか興味を示さない会社ばかり。
結局、Kさんが助けを求めたのは、地元の主要企業と県が共同で設立したファンドと、そのファンドを運用して「カネも口も出す」独立系のベンチャーキャピタルだった。
超小型歯車は、精密機器に加えて、医療機器やゲームなど、用途はますます広がる。Kさんのようにすき間市場での技術開発型起業を考える人にとって、現在は起業のための環境はよい。
ただ、視野を広げていないと、資本の論理に食べられちゃうよ。
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