2006年5月以降の施行が決まった新会社法の制定によって、会社を設立しようと準備を進めている起業家が急速に増えている。
新会社法の施行以降は、有限会社の設立が出来なくなり、新たに設立できるのは、株式会社か新設される合同会社(LLC)に限られる。
また、新たな株式会社では、これまでの3人以上取締役、1人以上監査役の制限がなくなり、1人以上の取締役で設立できる。
資本金も最低1000万円の最低資本制は撤廃され、現在特例で認められている1円起業が、来年5月以降は恒常的に認められることになる。
03年2月からスタートした1円起業によって05年7月まで約26000社以上の会社が設立している。
03年7月、それまで勤めていた携帯電話向け広告会社を辞めて、同僚2人と広告会社を立ち上げたOさん(39)も、資本金1円の確認有限会社でのスタートだった。
広告会社にとって必要な経営資産は、クライアント企業との人脈と広告出稿のノウハウだけ。極端な話、電話と机だけで始められる商売だけに、1円起業には最適な業種と思われた。
ただ、起業が簡単な業種だけに競争も激しい。また、広告を露出する新聞やネットなどメディアが限られるだけに、新規性を発揮したり、差別化を行うことも難い。
そこで広告事業から、コンピュータ上の機密ファイルの取り扱いを監視するソフト開発へと事業転換を図る。
丁度、03年から04年にかけては、ローソン、ファミリーマート、三洋信販、ソフトバンクBBなど、企業の個人情報が大量に流出する事件が相次ぎ、05年4月の個人情報保護法の施行に向けて企業が積極的対策を講じていた時期と重なる。
この時期は、Oさんら3人にとって最も厳しい時期だった。広告業と違って、ソ
フト開発には多額の資金がかかる。慣れないソフト開発に投資して、そのソフトが企業に受け入れられる保障は何もない。
ただ、3人には、以前勤めていた広告会社で身に付いた事業が時流に乗るすべを知っていた。この商売の種を育てることによって、個人情報保護の時代に一定の役割を果たすことができると・・。
Oさんの会社が開発した、企業が保有する機密情報の作業履歴のすべてをログ監視するソフトは、ファイルの複製、記録媒体へのコピー、閲覧、印刷などの不正操作の原因究明、責任の所在の明確化を可能にし、不正利用を阻止する。
また、すべての認証と暗号化はハードウエア固有のIDによって行うため、万が一に情報が漏洩しても、第三者のハードウエアでは解読できない二重のセキュリティ対策が講じられている。
設立当初は1円だった資本金も、04年1月には300万円、7月には1000
万円、05年1月には約2000万円と増資を実施し、現在では、大手自動車販
売会社や商社、大手通販会社など、本社と支店、協力会社、取引会社の間で大量の情報の送受信を行う会社200社以上に導入されている。
物的経営資源を伴う起業において、1円起業は確かに難しい点が数多い。
しかし、人的な経営資源で顧客対象が個人である場合、1円起業は十分有効である。
また、Oさんの会社のように、企業がホップ、ステップ、ジャンプとカタチを変
えて急成長する際に、助走としての1円起業も十分な役割を果たす。
何れの場合も、起業に向けての動機付けとしての1円起業であり、起業後のシナリオの描き方によっては、面白い会社作りが可能になりそうだ。
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