最近は、起業に関する情報が非常に豊富になっている。そのため、製造業はリスクが大きいから販売オンリー、一人での起業は荷が重いのでパートナーを探し、商品販売よりは初期投資が少なくて済むからサービス業を選択と云った風潮が蔓延していて、楽なカタチを追い求めた起業ばかりになっている。
そんななか、自分のアイデアを基に製品の開発から販売までを、起業とはまったく無縁だった若者が、ビジネスのテキストに載るような会社作りを行い着々と成果を上げている。
独身で派遣会社に勤めていたK(30)さんは、都内でワンルームマンションに一人暮らしをしているが、毎夜入るユニットバスの使い勝手悪さには辟易していた。狭いユニットでは、石鹸を使って体を洗うとき、バスタブのお湯を抜いてその中で洗うしか場所がなかった。
そこで彼は、空いているユニットのトイレ側の便器に特性のカバーを被せ、その上に座って体を洗うことを考えた。
ぼんやりとしたアイデアはあっても、彼には起業に関する知識も、相談する人脈もなくアイデア倒れに終わりそうだった。
彼がアイデア倒れに終わらせなかったのは、24歳の時に遭遇した交通事故だった。
その後3年間に渡って入院、通院を続ける大事故だったが、そこでの教訓が「どうせ人間死ぬなら、何かを成し遂げて死にたい」と云う自分への使命感にも似た気持ちだった。
そこで彼は、ユニット用便器の特性カバーのことを思い出した。人材派遣会社に勤めながら、まず最初に着手したのが、ユニットバス使用者を対象に特性カバーのアイデアが受け入れられるかどうかのマーケティングだ。
ここでニーズの高いことを確認すると、製品の製造に向けての調査を開始する。同時に、事業計画の立案のために公的な経営コンサルティングのアドバイスを受けた。
約1年間にわたる準備期間を経て人材派遣会社を退社、03年8月に有限会社を設立する。
1年間の準備期間を確保しておくことで、その年の11月には製品の販売を開始する予定でいたが、製品の細部の詰め、委託製造先の選定、販売ルートの開発など、手探りで事業化を進めていたがスタート時期がドンドン延期され、実際に製品が手元に届いたのは04年になっていた。
当初予定していたぎりぎりの初期費用1200万円も、ドンドンと膨らんでいく。
ただこの時期には、寝ても覚めても起業のことだけを考える生活をし、同時に、
分からないことは何でもコンサルタントに相談する習慣が、今の彼の財産となっている。
販路開拓では、地道に大手小売店を営業で回って、製品の説明をして歩くが、徐々によい感触を得ていく。そしてその中から、東急ハンズやドン・キホーテなどにも製品を置いてもらえるようになった。
今年に入ってからは、会社も成長軌道に乗って歩み始めている。従業員も3人抱え、次第に会社の呈をなしている。それでも、営業、受発注管理、会計などKさんが主体になって展開している。
現在、便器の特性カバー単品の販売だけで、東南アジアへの輸出の話やユニットバスのあるマンションへの直販など、販路のさらなる拡大を図っているいる。
また、新たなアイデア製品の開発を進めてアイデア日用品の総合メーカーへの夢ももっている。
楽な起業が大手を振う最近の風潮の中で、ゼロから自力で会社を立ち上げたKさんは、今後の動向がとても興味深い。
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