茨城県に住む主婦のNさん(33)が介護施設に対して強い興味を持ったのは4年前、それまで勤めていた会社を辞めて、長男の子育てと認知症(痴呆)の祖父母の世話をするため、二人が入所していた老人健康施設(老健)に出入りするようになってから。
老健は病後の老人が、看護やリハビリを中心にした医療ケアと生活サービスを受ける施設。認知症の場合は、健康体なのに物忘れや徘徊がひどくなる精神に関わる症状なので、キメの細かい看護体制が求められる。
認知症への十分な対応が図られていない老健は、祖父母を安心して任せられる環境ではなかった。特に、NYの貿易センタービルが爆破された9.11以後は、おじいさんが戦争中の記憶を思い出して病状が悪化したためNさんの心配は一層募った。
彼女は、施設への興味が高じてホームヘルパーの資格を取得した。
同時に、介護のセミナーに参加したり、周辺の介護施設を見て回った。そして、祖父母のために、同じ病のお年寄りのためにも、慣れ親しんだ地元で自宅と同じように家庭的を過ごせる介護施設を作りたいと思うようになった。
その結果めぐり合ったのが、痴呆対応型共同生活介護事業所(グループホーム )である。
当時28歳だったNさんがグループホームの建設まで考えたのは、おじいさんの土地と資産を活用することができたからである。
本来なら、死後に相続することになる財産を生前に使って、認知症に病んでいても、活き活きとおじいさんらしい最後の生活の送ってもらいたい気持ちからグループホームの建設はスタートした。
建設にあたっては、北海道から九州まで多くの介護施設を見て回ったり、介護サービスの専門家の講演会やセミナーを聞くなど、徹底して情報の入手に勤めた。また、コンサルタントを通して建設、運営のノウハウも身につけた。
2002年8月の開所までには、介護サービス会社の設立、1億円近い融資の銀行との交渉、施設の設計と建築業者の選定、県の事業所認定、スタッフの人選と研修、入居者の募集など約1年以上の年月を全速力で駆け抜けた。
グループホームは、入居者の生活すべてを看護するため年中無休の24時間体制である。食事、入浴、排泄などの介護をしながら、一方ではできるだけ入居者が自分で炊事や洗濯などを行って、助け合いながら少人数の共同生活をしている。
現在、Nさんの施設では18人の入居者が、17人のスタップの手助けを借りながら暮らしている。
開所して3年、現在はグループホームのほかに、デーホームサービスの施設と居住介護支援事務所の2つの拠点も抱え、経営的にも安定を増している。開所前の準備期間にしっかりと収支シュミレーションをしたかいがあって、開所7カ月で単月収支を黒字にした。
たまたまNさんの住む市では、初めてのグループホームということもあって、役所が施設の建設には協力的という追い風もあったが、反面、役所にはグループホーム建設のノウハウがまるでないために、Nさんの開拓者精神が大いに役立ったようだ。
昨今、介護施設の建設というと、資産家が土地や資産の運用手段の一つとしてスタートさせる例が多いが、経営的に行き詰っている施設も多い。
Nさんのように祖父母を思う気持ちと若い人には珍しい冷静な経営マインドが、起業を成功に導いたように思える。
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